下北沢『福元』/ミディアムピュアな酢飯/14年連続ミシュラン/グルタミン酸
飲んだくれと売れない表現者達とカレー好き古着好きの聖地「下北沢」。
20代ならまだしも、40歳なりたての今の私は頭が煮詰まったときに頑固な熊親父の極上エスプレッソを飲みに訪れるくらいです。
もちろん、代沢のほうには高級エリアしっかりあります!
さて、下北沢『福元』。
ここのお店を14年連続ミシュランが選んでいることには良い意味で毎回少し驚きを感じます。
良い意味で、です、
銀座『しのはら』など、都内の和食で散々やらかすミシュラン をここに伺う度に見直す、そんなお店の一つです。
地下にあるこちらのお店、プチモダンな内装の中、人生の大先輩の氏がにこやかに迎えて下さいます。
まず最初に気になるのは美しくたおやかな檜(ヒノキ)のつけ台。
いつも白くなめらかで、ずっと綺麗。
乾燥へちまとおから/牛乳でコツコツ磨かないとこうはならいないです。
ほんとうに「たおやか」。
見られていないところでつい何度も小指の腹で撫でてしまいます(笑)。
すべての席が正面になるように設計された、微妙に壁に角度をつけてきっちり正方形になってないのもまたいいんですよね。
御主人の福元敏雄氏は70歳過ぎに見えますが、現在62-63歳前後。
銀座『すきやばし次郎』の二郎氏が96歳で未だ現役と、1人時空を歪めていらっしゃるせいで70歳前後が中堅かのように錯覚してしまいます。
氏は神田で修行して雇われの身からコツコツ×2丁寧な接客/丁寧な仕事を続けられた結果、段々出世してお店を任されて、やっとの思いでこのお店を持たれました。
他業種もそうですが、この年代の鮨職人の方々は自分が40代の働き盛りのときにはバブルが弾けてどっぷり不景気。
なんのツテもコネも担保もない鮨職人が開業資金のために何千万もお金を貯めるなんて夢のまた夢だったんですね。
やっと独立できたのが、景気も上向いてきた2004年のことでした。
今の40代鮨職人のように、
「○○で何年間修行してきました!所持金1,000万円ありますので5,000万円-1億円融資してください。」
で即審査が降りるような時代じゃーない、そんな時代。
コツコツ丁寧な仕事ぶりが評価されたのでしょう。
2021年度で14年連続ミシュラン 一つ星。
こちらの握り鮨はおそらく皆さん意外に思われると思います。
「えっ?こんな普通でミシュラン?」
「重厚さも派手さも何もないけどこれでミシュラン?」
下北沢『福元』のお鮨はですね、握り鮨において、各店舗の酢飯(シャリ)の特徴を掴んで酢飯(シャリ)だけで各店舗見分けられるくらいに食べ分けることができるグルメンしか無理じゃないかなー?
と思ってます。
どういうことか?
福元氏の酢飯(シャリ)は赤酢が使われているのですが、深み/濃厚さ/強い酸がないんです。
正確には"あえて"そうしているんです。
そしてWetでPure。
赤ワインでいえば10年程熟成させたミディアムボディ。
特徴的なニュアンスがないので、ルロワのコトー・ブルギニヨン・ルージュじゃないんですよね。
強いて申し上げるなら、10-15年熟成させたシャサーニュ・モンラッシェの赤、同じく同期間熟成させたクリュ・デュ・ボジョレーの赤ワインを想起させるような酢飯(シャリ)。
高級熟成ブルゴーニュじゃーないんです。
高級では無いのですが、良い造り手の良ヴィンテージのミディアムボディの赤ワインを適切にギリギリまで熟成させた、そんなイメージです。
余程のワイン好きしか判らない例えでスミマセン。
ただ、この表現は極めて正しいので、興味ある方は是非周囲のソムリエにお尋ねください。イメージだけでも教えてくれるはずです。
江戸前握り鮨を深く知るには日本酒はもちろんのこと、ワインも深く学ぶとより愉しいんです。
私がなぜそう感じるのかといいますと、通常酢飯を作る際の酢には、砂糖/塩/昆布だし/赤酢/赤酢以外の酢/日本酒などを色々配合や種類を変えて各店独自配合するわけなんですが、こちらの酢飯(シャリ)は限りなく2-3種類の赤酢だけで作られている印象だからなんだと思います。
すごくピュア。
で、秋田こまちの古米をブレンドしたお米でサラッとした炊き味にして、そのお米を赤酢と水分が儚いくらいにキレイな淡い赤の色調のバランスで包んでいるように感じるからなんです。
お刺身で藻塩が出てくるので、もしかしたら鮨酢のグルタミン酸は昆布出汁すら使わず、藻塩だけかもしれません。
それくらいシンプル。
銀座『次郎』『さわ田』のように、食後に30-50年物の極上高級ブルゴーニュの赤ワインを飲みたくなるわけでも、築地『佳太』や『Omakase』のように食べてる最中に猛烈に純米酒を頂きたくなる鮨でもありません。
70歳前後に見えるかのような細い身体と小枝のような腕でパラパラした酢飯(シャリ)が厳選された鮨ネタと共に静かに「キュッキュッ」と握られ、頂いた途端にパラパラほろほろ口の中でほどける酢飯(シャリ)。
ミシュランメンバーはここに下北沢『福元』の独自性を見出しているんじゃないかなと思います。
ちなみに同じ酢飯(シャリ)でもNo.2の方が握ると途端に固くなります。
それだけ握る人で変わるのが握り鮨です。
裏を返すとそこに気付かない人達にとってはただの地元に根ざすちょっと小綺麗な居酒屋鮨屋でしょ?となるわけです。
この酢飯(シャリ)の水分とのバランスは、日比谷『なんば』もそうですが、ステンレスボールで酢飯を作るとこうなることが多いです。
この日は出水(鹿児島県)のアジと大間のマグロの中トロが大当たり。
お刺身の段階からビンビンに走ってましたもんねー。
高級鮨屋でもドキドキしてしまうアオヤギも小ぶりながらしっかりお味が濃厚で、1ミクロンも臭みなくとても美味しかったです。蛤(ハマグリ)は安定の美味しさ。
玉子焼きは私がしっとりタイプが好きなので、そして車海老は味が薄くいつも普通です。
若い頃にしっかり良い苦労された方は高齢になっても人となりが崩れないことが多いですよね。
接客も自然体で、握りだけの来店者にも嫌な顔一つせず、お店スタッフへの声掛けも変わらず丁寧。
コースは
お任せ16,000円/人
握りのみ 11,000円/人
のみです。
なので、追加2-3カンして、日本酒2合で23,000-24,000円/人程。
ほんとこのお店を毎年選出しているミシュランスタッフにはお見それします。いつも失望してあーだこーだ申し上げてスミマセン(笑)。あのメンバーにも握り鮨を深い部分で理解している人が少しはいるんだなーって感じです。
逆にワイン文化の国だからこそ、あの酢飯(シャリ)の特徴/良さに気付いたともいえます。
地元以外の方にとっては、私のレビューをご覧なられて興味持たれた方は行かれたら良いと思います。
私は自宅が都内西側で比較的近いため、福元氏の前席指定で年2回レベルでこちらのお店に伺ってます。
掘りごたつ形式の個室もありますが、余程こちらに縁深い方以外では仕事には使えません。
地元の人達が気兼ねなく美味しい握り鮨をリーズナブルに食べれるお鮨屋で、そんなお鮨屋がミシュラン星を取ったというだけです。
例年は外国人観光客が4-6割なので今は予約取り易いです。
来店者を2回転3回転と強引に回さず、最初の来店者が最後までゆっくり握り鮨とお酒を愉しめるのも昔ながらの鮨喰いに愛されるポイント。
内装も接客も御主人の握る鮨も総ての色調が同じです。
海外の方でも女性だけでも、お鮨に慣れてない方でも優しく丁寧に対応くださいます。
LEON/東京カレンダー好きの変にギラついた高級志向の方には、彼らの射倖心が満たされないはずなので、そんな方々にはこちらなのお店は合わないです。
逆に極端にこちらのお店を好きな方は「所詮食べ物なんだからさー、お洒落して気取って高い値段出さなくても良くない?リラックスしてゆっくり食べるのが1番美味くない?」っていう方々だと思います。
お一人様はもちろんのこと、鮨好きの友人と、もしくはカウンター鮨をリーズナブルにリラックスしてデビューしたい女子会やカジュアルデートに。
※日曜日もやってます。
※握りのみオッケーとはいえ、ビール1本日本酒1合、お酒飲めなくてもエチケットとして一通り頂いたらサッと席を立つか、せめて烏龍茶位2杯はお願いしましょう。
※場所柄、服装もカジュアルでオッケーです。
※店外に喫煙所があるので、煙草吸う来店者達と同席してしまったときは自分の不運を嘆きましょう。